4章

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真実とは、愛である。

真実こそ、愛である。


彼にとって真実は、彼のなかにあり続ける不変の愛。だから禍恋契斗は真実で答えて欲しかった。


その口で、愛を_真実を囁いて欲しかった。


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銃口はぴったりと一色の頭を向いて動かない。

「…どういうつもり、アリス」

一色が口を開く。「黙ってください」禍恋がつめたく言い放った。


「アナタは"偉大なる財"を手にするのに相応しくない。だから、ここで死んでもらいます。」

「酷いじゃないかアリス。じゃあそこの連夜くんはどうなるの?彼には良くて、僕には良くないと?何が違う?」

一色はその穏やかな声色を帰ることなく、堂々たる足取りで禍恋に歩みよる。


「…何が違うか…ですか。連夜くんをアナタなんかと一緒にするのはよしてください。ぼくはあなたほど愛を___真実を侮辱する者には出会ったことがありません」

禍恋はけだるげにまぶたを伏せてはぁとため息をついた。


「ぼくはアナタが嫌いです。真実を___愛を知らないアナタが嫌いです。アナタの歪めた真実が愛が許せない」

「……だから何だっていうの?」


「ねえ知ってますか、気づいてますか。このコロシアイの意味。真実を求めた者にのみ与えられる偉大なる財。そう真実です   迷悟さんはアナタたちに、真実を求めて欲しかったんですよ…!それなのにアナタといったら!連夜くんに余計なことばかり吹き込んで、神聖たる推理の場に邪魔ばかり入れて…。アナタに、最後の舞台に立つ資格はないとぼくが判断しました」


禍恋がずいと拳銃を一色の額へ押し付けたので、一色は手をひらひら振ってそれを宥めた。

「だから殺すって?勘解由小路迷悟のためにって?君はそりゃあ、このコロシアイにおける大層な権力者なんだろうねぇ。どんな立場なのかな」


「協力者といったところです。___Rnさんもぼくと同じく、勘解由小路さんに雇われた協力者でした。このコロシアイを円滑に進めるためには、進行役と、潜伏役が必要だったのです。」

禍恋は至極淡々とそれについて語る。葵はその2人の話すのを、呆然と聞いていた。


「そんなものだろうと思ったよ。__それはつまり…」


勘解由小路迷悟が黒幕であると。


「君たちはいわば内通者、それを雇った人は必然的にこのコロシアイを企画した黒幕ということになるね。今の言い分からして犯人は別として、それは正しいのだろうね」

一色がくすと笑って鋭い眼光で禍恋を見つめる。禍恋はぐっとおしだまる。その反応を見て満足したかのように、一色は仰ぐように禍恋と葵の方を見やり、続けた。


「まあ、そんなことには別に興味がなくてね。うん、真実だとかそういうのもどうでもいいんだ。僕にとって大切なのはね、その過程がどれだけ面白いかなんだから。人間は結局、過去の真実よりも現在の快楽を重視する生き物なんだよ」

「…つくづく趣味が合わないんですね、アナタ…。アナタとの出会いもきっと運命なのだろうけど、ごめんなさい。これは、未来のためです。受け入れてくださいね…」

禍恋は少し俯いてからピストルを握り直す。一色は笑って、コツコツ歩き出す。


「まあいいや。僕も暇じゃあないんだ、どうせ殺すなら一思いに頼もうか。あいにく暇でもないんだ。せっかく白く塗った烏を、これから緋色に塗り直さないといけないんだから。」

一色は、すっかり冷たくなってしまった絲言の隣にどさりと腰を下ろすと、銃口を見上げた。


「それじゃ。僕は今からわがままなアリスを追いかけないといけないから。」

彼がそう言って微笑むのを合図に、禍恋は引き金をひく。葵がきゅっと目を閉じる。バンと地を這う様な低い音がして、いくばくもなくそれは彼の頭に小さな穴をあけた。21グラムを失った一色の抜け殻は、隣の絲言に折り重なるようにして倒れ、そこから流れた血はどくどくと周囲を赤く広く染め上げた。


葵が次に目をあけた時には目の前の惨劇は全て終わった後で 返り血に染まった禍恋契斗がただ優しく微笑むのみだった。

4:赤い烏