1章

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もしもし、もしもし。聞こえますか?もしもし

……。


照見は黙って受話器から耳を離す。海の上で電波がないからなのか、電話は繋がらなかった。ここで使える電話は船内の各部屋を繋ぐ固定電話だけのようだ。


照見は憂鬱になった。こうして受話器の奥の虚無を聞いている間にも、きっと誰かの声がきっと私を求めている。早く、なんとかしなきゃ。早く…帰らなきゃ。私のあるべき場所へ。

だって私は、孤独じゃないから。


その時コンコン、部屋の扉をノックする音が聞こえる。照見の顔がこわばる。机の上の遠いところへ、腫れ物を扱うように置かれたピストルを見て、数秒迷い、はっと正気に戻ってそれを置き去りにして扉の方へ向かった。

『…どなた、ですか』

扉をほんの10センチほどあけて照見はおそるおそるうすぼんやりとした廊下を覗く。「やあ」そこには三井が立っていた。


「こんばんはお嬢さん。こんな夜更けにすまないね。」


「…なんて前置きはこれくらいにして、俺はお前ちょっと話がしたかったんだ。なに、ピストルなんて持ってきていないから安心しな。」

『…。どうして私ですか?』

聞くと三井はふっと目を細めて「なんてことはないけど」と笑った。


「孤独な夜は誰かの声が聞きたいものだろう?」



三井は「未成年の部屋へ上がるのは流石に気が引ける」と言うので、一つ下の階にある手頃なラウンジへ二人は向かった。結局、照見には断り切ることはできなかったのである。


外はもうすっかり濃い紫色の空をしていて、月あかりは雲の隙間からわずかに顔をのぞかせるだけだ。ラウンジの扉をぱたんと閉めるとすっかり真っ暗になってしまったので、照見は手探りで電気スイッチを探す。しばらくして見つかったそれをぱちとつけると、部屋はたちまち暖かいオレンジに染まった。


三井はすでにソファへ腰掛けていた。常に暗闇の中で過ごす彼にとって、この電球などなんの役にも立たないので、なくても座ることができたのだろう。

「ああ、電気つけたのか。まあ、座りなよ」

三井に促されるまま彼の正面のソファへ腰掛ける。少しの沈黙の後、彼は口を開いた。


「単刀直入に言うがね。お前はこの事件の黒幕は誰だと思う?」

『黒幕…?犯人、ではなくて?』

「そう、この際犯人は後回しだ。賢い探偵のお前ならわかるだろうが、今俺たちが真っ先にすべきことは黒幕の目的を知ることだ。」

『…。なぜそんな、大事な話を私にしたんですか…?結斗さんとか、瞑さんとかの方が、頭も良さそうで力になってくれそうなのに』

「あの探偵どもはな〜んか信用ならなくてね。その点君は、いい話し相手になる。」

口が硬いから、と言うことだろうか。照見は考える。黒幕、とは。


順を追って考えよう。まず私たちは、勘解由小路迷悟によってこのマザリン号へ招かれた。挑戦状には‘’最上の謎‘‘を解いたものに‘’偉大なる財‘’を与えるとの旨。集められたのは10人の探偵。本業、副業、趣味問わず。お互いの面識はなく互いに初対面。1日目、私たちは白百合のホールへ集められ、勘解由小路迷悟と顔を合わせた。その際、蛇腹強と勘解由小路迷悟の間でいざこざが起き、その日はお開き。その後は皆部屋へ戻った。2日目、ほとんどの人がカジノやゲームセンター、図書館などで過ごしていた。勘解由小路迷悟からの放送で私、火衣さん、葵さんの三人で彼の部屋へ向かい、ふたつのアタッシュケースを運ぶことになった。その際、勘解由小路の声を聞いたので、まだ彼は生きていたはず。その後蛇腹以外の全員がカジノに集まり、しばらく遊んでいた。アナウンスがないことを不審に思いホールへ向かうと、勘解由小路迷悟が死んでいた。蛇腹強が犯人であると断定され、Rnがアタッシュケースから取り出したピストルで蛇腹強を殺害した。

この一連の流れには、たしかに不審な点がある。


『……黒幕、なのかはわかりませんが。』

「ほう?言ってみな」


『勘解由小路迷悟が、このコロシアイになんらかの形で関わっていることは確かではないかと』


「…お見事!どうやら俺と同意見だ。念の為、根拠も聞かせてくれる?」

三井が悠々と拍手をして言った。照見は「はい」と小さくつぶやいて続ける。


『…アタッシュケース。ピストルの入っていたアタッシュケースは、確かに迷悟さんによって準備されたもののはずです。取りに行った際、迷悟さんの声を私は確かに聞いていますし、放送も彼によるものだった。これは偽装しようのない事実…。よって、彼が自分の死ぬことを想定していなかったとしても、ピストルを用意していた彼はコロシアイをさせるつもりはあったのではないかと。…そう、考えました。』


「なるほど。俺も同意見だよ。…もっと言うのであれば、彼は自分が死ぬことを想定していたのではないか、と俺は思ってる」

『…?それは、どうして…』

照見が不思議そうにきくと、「まァ、こればかりは想像の域を出ないんだけど。」三井はふっと笑って続けた。


「彼は1日目の晩、『本題については明日の夜ゆっくりやる』と…そう言ったね。そしてその、‘’明日の夜‘’に事件は起きた。」

『…?それが何かおかしいのですか?』


「俺は思うのだよ。‘’勘解由小路迷悟の死の真相こそが、彼の用意した最上の謎である‘’のではないかとね。」


三井は笑う。


「そしてこの謎を解き明かした時、探していた答えは全て俺の手の内になる。」


「なぜなら‘’偉大なる財‘’とは_______




…嘘。


なにが起きた?今私、なにをしたの。

だってあの人が階段をうっかり踏み外して、私の腕を掴もうとしたから。このままじゃ落ちる、って思わずその手を振り払った。

仕方ないでしょ、仕方なかったじゃん、


ねえ私どうしたらいいんですか、もしもし、もしもし。…


応答なし。(すちる



明るく透けるカーテン。かもめの鳴き声に葵は目を覚ました。コロシアイをすると宣言されて一晩が経ったが、葵はいまだにそれを噛み砕けずにいる。昨日だけで2人も死んでしまったのを思い出して嫌な気分になった。

『…1人で考えてもしょーがないっ!行動あるのみだ!』

葵が部屋を飛び出すと、お決まりのように禍恋が隣の部屋から現れる。

「おはようございます…。偶然ですね…♡」

『おはよう!そうだな!禍恋は今日はなにしてるんだ?やっぱ推理?』


「ううん、そうですね…。迷悟さんの死体は随分調べて行き詰まったところですので…今日は、Rnくんに話を聞いてみるのはどうかな、って思ってました。」

『そうか!じゃあ照見も誘うか?』

「そうだね…。連夜くんがそうしたいなら、そうしましょう」

葵は手前にある照見の部屋をノックする。

『照見、起きてるか?事件の推理するって話になってんだけどお前も来ないか?』


少ししてインターホンの向こうから照見の声がする。

「…すみません、体調がすぐれなくって。今日は一日部屋で休もうと思いますので、申し訳ないですがお二人でお願いします。」

「え…大丈夫、ですか?看病とか…ぼく、しますけど」

「いえ、お構いなく。少し休めば大丈夫だと思います。それじゃ、失礼します」


禍恋は残念そうに肩を落とし葵の方を振り返る。

「…連夜くんは一緒に来てくれますか?」

『もちろん!オレはお前の相棒だからな!お前がホームズならオレはワトソンになるぜ!』

「…!?相棒…そっか…♡」

禍恋がうっそりと目を細めて笑った。禍恋の大きく薄い手のひらが葵の右手をそっと包み込んだ。


「じゃあ絶対、この手を離さないでね」



「ワタシは、ご依頼を遂行しているだけにございます。」

『その依頼って、誰からのなんだ?』

「個人情報はお渡しできませんね〜」

一番手前にあるRnの部屋を訪ねると、彼はすぐに出てきた。しかしのらりくらりとかわされるばかりで、情報はいっさい得られない。


「迷悟さんを殺したのはアナタではないんですよね?」

「さあ〜、どうでしょうね。それを推理していただくのも、アナタがたのお仕事でございますれば」

Rnはそう言うとすぐに部屋の扉をすっかり閉め切ってしまった。

「あ。…行っちゃいましたね…」

禍恋が捨てられた犬のように俯いた。葵がその背中をバシバシ叩いて「元気出せよ!!」と笑う。


その時のことである。


「うわあああああ!」


階段下から叫び声が聞こえた。おそらく、火衣のものだ。

『…!?なんだ!?禍恋!向かおう!』

「はい…!」

葵たち2人が階段を急いで降りていく。踊り場に差し掛かったあたりで、その正体は姿を現した。


答えをその手に収める前に、男は生涯を終えた。


【死亡:三井探】



推理開始


Rnに案内されたのは、薄暗い部屋だった。豪華な装飾の施されたソファが10個、円形に並べられている。推理すべき探偵たちは2人減り、8人。余った2つの席には彼らの遺品なのであろう、赤いヘアバンドと杖がそれぞれ置かれている。


「それではみなサマ、お名前のある席へどうぞ〜。三井サマは勘解由小路サマを殺した犯人ではございませんでしたので、今夜は三井サマを殺したクロをゆっくり、お話し合いして下さいませ〜。」


「まず、犯行時刻についてなんだけど…。誰か情報を持ってる人は?」

禍恋が切り出す。火衣が軽く手を挙げ答えた。


「オレは死体を発見する10分前くらいにあそこを1度通ってる。喫煙所がその先にあるから…。その時まだ、死体はなかった。」

「火衣くんのその話は信じてくれていいぜ。何故なら俺も一緒だったからだ。煙草を吸う奴は煙たがられるんでな」


「じゃあ死亡時刻はその10分間?おかしいな、それにしては死体は冷たかったし、死後硬直は進んでいた。アリスはもっとずっと前に眠ってしまったように思えるけど。」

「別の場所で死んだあとに移動させられた線はないの?」

「いえ、少なくとも彼が階段から落下して死んだことは確かでしょうね。階段の中腹に、僅かに血痕がありました。随分乾ききっていたようですが。」


『血痕が乾ききってた?それって、階段から落ちたのももっと前ってことにならないか?』

「そう……ですね、仮に流れを考えると…夜中なんかに三井さんを突き落として、きせるさんたちの通る時間にはその死体をどこかへ隠しておいた……そしてその10分間で元の場所へ戻した……ってことになりますね」

「…そんな面倒なことをする理由って……?」

「目的はわかんないけど……わざわざそんなことをするってことは、そうすることで犯人が得するってことでしょ?」


「そうでしょうね。もしかしたら犯人は"死体を隠したかった"のではなくて、"その10分前には死体がなかったこと"を見せたかったとか。」

『…?どういうことだ?』


「それが犯人のトリックの肝、と言うやつだったのではないですか?そうたとえば、アリバイを作っていたとか、その時間自分が犯行不可能だったとか」

「……でも、もし犯行時刻がその10分でないにしても、死体を動かすというアクションは必要なはずですよね…?となれば、やっぱりその10分にアリバイのない人が怪しいんじゃないでしょうか…。」

照見がおずおずと言う。「それじゃあアリバイの確認と行こうぜ」未明が傍らのグラスからワインを飲みながら言った。


「まず俺だが、さっきも言ったように火衣クンと喫煙所に居た。行きにばったり階段で会ってね。そのまま世間話をしながら煙草を1本やって帰ろうとしたところ、三井クンのを見つけたというわけだ。」

「右に同じ。だからオレには犯行はムリ。」


「私は…体調が優れなくて、ずっと部屋にいました。死体を見に行くまでは1歩も外へ出ていません。インターホン越しですが葵さんと禍恋さんとお話したので、それは証明してくれると思います。」

「…うん、そうですね……。呼織さんに声をかけたあと、ぼくと連夜くんはRnくんの部屋の前で10分くらい立ち話をしていたから、呼織さんが通れば気がついたはずです。実際、彼女は通りませんでした。」


『そうだな。オレは禍恋の言うようにずっとふたりでいたから、アリバイはあるぞ!』

「僕にはアリバイはないかな。朝から図書室で本を読んでいたからね」

「いえ、一色さんのアリバイなら俺が。君は気づかなかったようですが、俺も図書室にいました。君のことを見かけていますから……というか」

絲言が目を細めてRnの方を向く。


「君がやった可能性というのは無いのですか?君は俺たちからすれば裏切り者の、要注意人物なのですが。明らかに今1番怪しいのは君でしょう」


「おや、ワタシですか?でも残念ですが、ワタシは処刑以外でみなサマに手出しは出来ない決まりなのですよ〜」

「……これが本当かは知らないけど、少なくともあの10分間はぼくと連夜くんとRnくんで話していたから…彼に犯行はむりだよ」


「…そうですか」

絲言はにっこりわらった。貼り付けたような顔が少し怖い。

『うーん困ったな……全員にアリバイあるってこと?どーなってんだ!?』

「…嘘をつけるとしたら、絲言さんですね。一色さんを見かけただけで、一色さんが絲言さんを見ているわけではないようなので……」

照見が呟く。絲言は表情ひとつも動かさない。

「ではあのとき一色さんの読んでいた本のタイトルでも言いましょうか?シャーロック・ホームズシリーズの緋色の研究でしょう?」

「そうだね、正解。ああ少なくとも虚言ではなかったと。」


『そもそもさ、三井が階段から足を滑らせて事故で死んだ可能性はないのか?アイツは盲目だったわけだし』

「いや、だからだね葵クン……動かした人物がいる以上、ここの中の誰かの手が加わってるのはたしかなんだって」

『あ、そっか……でもみんなにアリバイがあるんじゃどうやって……』


沈黙。議論は進まなかった。

その時。「ときにアリス。」ひとりの男が声を上げた。彼の目の先にいるのは照見である。


「君は今日、1歩も部屋を出ていないのだったね。それは、夜中も同様だろうね。」

「…?ええ、もちろんです」

「では君は、昨晩強君が死んだあと、部屋へ戻ってからどこにも行っていない?」

「…だからそうだって言ってるじゃないですか」


その答えを聞くと一色は満足気にポケットへ手を突っ込んで、なにか小さなものを取りだした。

「じゃあこれはいつ落としたんだろうね、アリス?」


一色が指先で摘むようにして掲げるのは、明るい緑色のボタンである。

「これ、事件のおきた階段の隣のラウンジに落ちていたよ。部屋から出なかった君はもちろんあの部屋へは行けまいね?じゃあこれは、なんであの部屋にあったのかな?」


照見が焦ったように自分の服を見る。たしかに、ボタンはひとつ減っていた。

「…ッ!?き、昨日から無くしていたのかもしれません」

「いいや、それはないね。昨晩まではあった。たしかにこの目で見ていたよ。探偵の洞察力を舐めているようだ、君。所詮は耳だけの探偵。詰めが甘いと言ったところかな」


「…照見クンが嘘をついていたことはわかった訳だが。」

未明が切り出す。

「しかしそれでも、照見クンには"葵クンと禍恋クンと話した"というアリバイがあるじゃないか?それはどういうことになる?」

「そ、そうですよ。あの10分、私は部屋の中にいた事は確かなんです。私に三井さんの死体を動かすことは不可能です」


「はあ……頭のいい人の悪知恵ほど面倒なものは無いですね。一体どんなトリックを?」

「…。…葵と禍恋ってさ。」

火衣がふと口に出す。


「照見の姿を見たの?それとも、声だけ?」

照見の顔の血の気がずっと引くのを見た。

『えっと……声だけだったな。インターホン越しに話した。』


「やっぱり」火衣が少しだけ悲しそうに言った。

「そういう事だったんだな。……オレ、喫煙所に行く前、何回か照見の部屋に電話をかけてた。でも…いつかけても通話中だったんだ。だから諦めて煙草吸いに行ったんだけど。」

「…嘘」


「なあ、照見。なんで話してくれなかったの?……オレ、少なくともアンタとは、仲良くなれそうだって……。思ってたんだよ」

「………。」

『…え?どういうことだ?着いてけないぞ。それが何だ?』


「…連夜くん。あとは、彼女の口から聞かせてもらいましょう。……ね、話してくれるでしょう?真実を、アナタの口から。照見呼織さん」



……私は昨日の夜中に、探さんとラウンジでお話をしました。呼び出されて…仕方がなく。話は何事もなく終わって、そのまま帰ろうとした時、階段を上る途中で、探さんが足を滑らせたんです。その時咄嗟に彼が空中でなにか掴もうと出した手が、私の腕を掴んだ。…私、死にたくなくて、その手を咄嗟に突き放しちゃったんです。大きな音を立てて、探さんは落ちていきました。階段の角と、床のタイルに頭を打ってあの人は死んだ……不運にも、階段の随分上から落ちたので。

私には、探さんが勘解由小路殺しの犯人では無いように思えました。なので、探さんを殺したのが私だとバレてしまえば、私が処刑される……。だから、偽装工作をしたんです。


その階には喫煙所がある……だから、きっとここを通る人は1人くらいはいるだろうと思いました。なので、それを利用してアリバイを作ろうと思ったんです。

まず、探さんの死体を引き摺って階段の隣のラウンジへ隠しました。そのあと、そこの部屋の固定電話から自分の部屋へ電話をかけて、自分の部屋に戻ってそれを取り、通話中の状態にしました。自分の部屋の電話の受話器をインターホンのマイクの所へ取り付けて、ラウンジへいながらインターホン越しの会話ができるように細工したんです。…これが私のトリックの肝でした。

ラウンジに用のある人はあまりいないし、無事に私はラウンジに身を潜めながら連夜さんたちと会話をすることが出来ました。…電話を利用して。きせるさんと喀命さんが階段下を通って喫煙所へ行くのを見届けたあと、私は探さんの死体を引き摺って元の階段下へ戻しました。…戻すだけなので、10分もあれば十分です。…そのあとは、階段の側に身を潜めて死体発見のいざこざに紛れてみんなと合流しました。


「…以上です。これが私の犯行の全てです。」


照見は目にいっぱいの涙をうかべ、その犯行の全貌を明らかにした。

「…ごめんなさい。私、……誰にも相談が出来ずにこんなことを。私だって、やりたくなかった…でも、仕方がなかったんです」


「それでは〜、よろしいですね?今回のクロは照見呼織さんである、という結論で。」

Rnが立ち上がりピストルを取り出す。照見の前で彼はぴたりと立ち止まると、隙のない動作で照見の眉間に銃口をあてた。


「遺言は?」

「……。私は、」


「……ごめんなさい。……私は、孤独だったんですね。」


か細い声に続く銃声。少女はソファにぐったりと身を委ねて死んだ。どくどくと緋色の液体は絶え間なく流れ、やがてそれすらもなくなると彼女は一切の動きを止めた生ぬるい蝋人形となった。


「さようなら、来世ではアナタが誰かを信じて愛せますように」

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